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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(オ)513号 判決

主文

原判決中、上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人下光軍二、同上田幸夫の上告理由について。

所論の点に関し原審の認定した事実、すなわち、(一)被上告人東京晝夜信用組合(以下「被上告組合」という。)は昭和三〇年七月六日第一審被告小林嘉夫に対して一六〇万円を貸し付けたが、その頃被上告組合が多額の負債を抱えていたために、同組合理事長伴道義の要請により、小林嘉夫は伴道義から右金員を借り受けたことにするとともに、小林嘉夫所有の第一審判決添付目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)につき、東京法務局中野出張所同年七月一二日受付九七四三号をもつて伴道義を権利者として抵当権設定登記及び停止条件付代物弁済契約を原因ととする所有権移転請求権保全の仮登記がされたこと、(二)訴外小林次雄は、かねて伴道義に対し多額の貸金債権を有していたところから、昭和三九年中に同人よりその一部の弁済に代えて、同人が小林嘉夫に対して有するという本件貸金一六〇万円の元利金等債権及びこれを担保する抵当権、代物弁済予約上の権利を譲り受けたうえ、その頃小林典子に、同人は昭和四二年中に上告人に、順次右各権利を譲り渡したこと、(三)小林次雄は、伴道義から右各権利を譲り受けるにあたり、伴道義が真実その権利を有しないことを知らなかつたことにつき善意であつたとはいい難いが、上告人は、右各権利が伴道義から小林次雄、小林典子を経由して自己の取得に帰するものと信じ、善意でこれを譲り受けたものであること、以上の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯肯することができる。ところが、原判決は、上告人の民法九四条二項に基づく予備的主張に対し、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、同条項が類推適用されるべき事情があるとしながらも、小林次雄において伴道義が真実その権利を有しないことを知らなかつたことにつき善意であつたと認められない以上、転得者である上告人は善意であつても同条項による保護を受けることができないとして、その主張を排斥した。

しかしながら、民法九四条二項にいう第三者とは、虚偽表示の当事者又はその一般承継人以外の者であつて、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至つた者をいい、甲乙間における虚偽表示の相手方乙との間で右表示の目的につき直接取引関係に立つた丙が悪意があつも、丙からの転得者丁が善意であるときは、丁は同条項にいう善意の第三者にあたるというべきである(最高裁昭和四〇年(オ)二〇三号同四五年七月二四日第二小法廷判決・民集二四巻七号一一一六頁参照)。これを本件についてみると、伴道義と取引関係に立つた小林次雄が悪意であつたことのみを理由として、転得者である上告人の善意悪意を問わず、上告人は同条項による保護を受けることができないとした原判決は、同条項の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないところ、上告人が善意の第三者であつたことは原審の適法に確定するところであるから、被上告人らは伴道義と小林嘉夫との間の前記契約仮装による無効をもつて上告人に対抗することができないものというべく、被上告人らはいずれも上告人に対し、上告人が本件建物につき東京法務局中野出張所昭和三〇年七月一二日受付九七四三号所有権移転請求権保全仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をすることを承諾すべき義務があるものといわなければならない。

よつて、原判決中上告人の敗訴部分は破棄し、右部分につき被上告人らの控訴を棄却することとし、民訴法四〇八条、八九条、九三条、九六条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

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